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プロフィール
HN:
瑞穂
性別:
女性
自己紹介:
4年間巫女として奉仕していましたが、今は普通の仕事しています。
巫女の実情について色々書いていきますが、現実を知って幻滅したくない方は読まないようにして下さい。
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神職の資格を取ったものの、神職として奉仕させてくれる神社がなく、かろうじて巫女でなら雇ってくれる神社を見つけ、そこで4年間奉仕ししていました。 今は普通の仕事をしていますが、当時を振り返り注目度が高い?巫女の実情を嘘偽りなくお話します。
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 H先輩が欠勤し始めて既に半月が経過したある日の昼下がり、昼ご飯を食べ終わった神主さんはのんびり新聞を読み、今日は3人しかいない巫女はのんびり手水用の手拭に使う紙を折ったりしていた。
 もうきっと今日はこのまま殆ど参拝者も来ないだろうねー、暇だねー、のんびりしようねーとまったりとした空気が流れる中、電話が鳴った。たまたま電話の目の前にいた私が出る。

「はい、×××神社でございます」

「初めまして、Hの母ですが」


「え゛!?」

 潰れた蛙のような声を出した私に、社務所にいた何人かが振り返った。

「あ、はい、初めまして、こっこんにちわ~、H先輩にはいつもお世話になってます~」
 
 引きつった笑みを浮かべ、震える声で搾り出した。

「いいえ、こちらこそ。今日これからそちらに行って、宮司さんとお話がしたいんですが宜しいかしら?」

「え………、少々お待ち下さい」

 保留にし、とりあえず社務所にいる中でもっともエライ人にふる。平日なので人が少なく、今日の職員で一番エライのは経理課の課長補佐だった。

「すいません、H先輩のお母様からお電話が入ってまして、宮司さんに会いにこれから神社に来たいっていうんですけど」

「はぁ!? え、うそこれから? ど、どうしよう、とりあえず俺が出るわ」

 緊迫した空気が流れる。しかし、周囲の下っ端神主及び巫女は野次馬的な盛り上がりを見せていた。

「え、何々Hのおかんが乗り込んでくるの?」

「どーなるんでしょーねー、宮司さん会うのかなー?」

「おい、瑞穂電話どうだったよ? 声とか似てた?」

「よく似てましたよー。お母様と一緒にH先輩も来るのかな………」

「わー、何か楽しくなってきましたねー、しかも祭儀課長(正月に『帰れ!』と怒鳴った人)いないのに。あ、そういえば上層部の先輩巫女も誰もいないですね」

「確信犯じゃねぇの? すげえなあ」

 5分ほどの電話の後、青ざめた表情で経理課長が告げた。

「これからHのお母さんが来るぞ。30分くらいで来るらしい。瑞穂、応接室の準備だ。あと宮司さんは外出しているから、戻って来ても会わせない方向で行くからな。みんな宮司さんが戻って来ても『いる』って言うなよ?」

 30分後、社務所に向かってくる派手なおばさんがいた。顔を見て分かる。

 H先輩のお母さんだ!!

 経理課長と人事部の平課員がこっそりと裏に隠れた。巫女3人が強張った笑顔で迎える。

「先ほどお電話致しました、Hの母ですが」

「はい、伺っております。応接室にご案内致します。どうぞこちらへ」

 私が応接室へとH母を案内し、お茶を出す。

「少々お待ち下さい」

 お盆を持ったまま、課長達を呼ぶ。

「スタンバイOKです。頑張って下さい!!」

「マズイな、相当強そうだったぞ、あの母親………」

「2人がかりじゃ勝てそうになかったっすよねー」

「じゃ、私はこれで」

 そそくさと逃げようとする私の手を、がっしりと課長が掴んだ。

「いや、待て。何があるか分からんからお前、横の宮司室に待機してろ。で、宮司さんが戻ってきたら、うっかり鉢合わせしないように見張ってろ、いいな?」

「はい、じゃ何かあったら内線下さい。1時間くらいしたらお茶のおかわりを出すフリして様子見に行きますから」

「ようし、行くぞ!」

「をー」

 細長く頼りないコンビが応接室へと消えた。
 それから30分程して、外出から戻って来た宮司さんが宮司室に現れた。だいたいの話は社務所で聞いたらしい。
 私が淹れたコーヒーを飲みながら、

「何だかすごいことになってるなあ。で、俺は出ない方がいいんだよな?


「そうですね、宮司さんが出るのは最終段階ですから、いないフリして下さい。H先輩のお母さんが帰るまではここに隠れていて下さい」

「うん、そうする。そういやHも来てるのか?」

「いいえ、お母様だけでしたよ」

 更に30分後、予定通りお茶の交換に行く。

 お母様と課長達の計3人分のコーヒーを入れ替えて戻る。様子を知るためにゆっくり目に交換した為、大分話が聞こえた。かさこそと宮司室に戻り、予想外に厄介な話であることを耳に入れた。

「お、瑞穂、隣の様子はどうだった?」

「すんごい揉めてますよ。何か、お母さんがH先輩が寝ている隙に、勝手に先走ってここに来ちゃったみたいです」

「どういうこと?」

「先輩は巫女を辞めたくないみたいなんですけど、お母様はもう辞めて欲しいみたいで、辞めさせて下さいって迫ってますよ」

「なんじゃそりゃ」

「ここで巫女になってから今まで、先輩は何回か休んでますよね? その度に実家に電話していて、毎回ではないけれどお母さんが富山からここまで看病しに来ていたようで。こんなしょっちゅう倒れるような職場に娘は預けられない!って主張しています。だから宮司さんに直に話したいそうです。まだ外出していることにしてますけど」

「………、俺は別に会うのは構わんけど、会ったらもう最後だぞ? 退職決定だぞ? 本人が続けたいって言ってももう無理だからな?」

「ですよねー………」

 更に1時間しても、話は纏まらないようだった。
 とうとう宮司さんが立ち上がった。

「しょうがない、ちょっと行って来るわ」

「はい、お気をつけて」

「うん」

 のそのそと宮司さんが応接室へ消え、更に1時間後、先輩が退職するという方向で話が纏まり、H母は帰って行った。私物は後日取りに来ると言い残して。

 応接室を片付ける間、宮司さん以下3名は脱力した様子でソファに座ったままだった。コーヒーカップは下げ、新たに緑茶を3人分淹れて出すと、3人はゴビゴビと飲み干した。

「ああ、疲れた。本当に俺は疲れたよ」

 50近い課長がフルマラソンを終えたような表情でぼやく。

「いや~、強力なお母さんでしたねー。大阪出身か!?ってくらいに。ああ、今日の日誌になんて書いたらいいのかなあ。そういや退職願も何も書いてないですね」
 
 平課員は案外平気そうにお茶をすする。

「もう知らん。離職票だけ送っとけ」

 今だかつてない事件に、宮司さんも疲れたように答えた。

 結局、H先輩の姿を二度と見ることなく、退職は決定した。

 翌日、事の次第を聞いた祭儀課長激怒。先輩巫女達は嘆息。

 課長はよっぽど腹が立ったらしく、ヒマな時に私を捕まえて色々語りだした。

「あ~!! やっぱりさっさとクビにすりゃ良かったんだ。年末の賞与変返せってんだよあの馬鹿女!! この出勤簿見てみろよ、あいつ3年間で何日欠勤や遅刻したと思う!? 今数えてやるから待ってろよ、え~と、うわ60日くらいあんぞ、ありえねえな。あいつは昔から勝手だったんだよ、今までも『辞めます!』っつたのは1度や2度じゃねえからな。じゃあ辞めてもらおうかっていうと、『続けたいんです!』とか言い出すしよ。やっといなくなるんだな、あーせーせーした!!」

 当たり前ですが、相当怒ってました、課長。

 先輩達は、これで彼女がらみで怒られなくなるのかとちょっと肩の荷が下りたような顔でした。後輩の不祥事は先輩に行くので、今まで大変だったのでしょう。ここまでスゴイ人もそうそういませんが、おかげで先輩の苦労はかなりのものでした。
 やっと解放された感じです。

 これで神社に平穏が訪れました。

 しかし、退職後にまで更に後日談があったりします。

 続く。次で本当に最後のエピソード。

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